
シンプルな曲線。
静謐さを思い起こさせる、すっきりとした直線。
まさに、「繊細さ」と「力強さ」の共存する 「POWER」を表現したボトルです。
元々は、桝一市村酒造場のために原研哉氏によってつくられた「白金」という日本酒のボトルでしたが、それは、パトリックが思い描く「KENZO POWER」の世界観そのものだったのです。
原氏の中では、それは、厳然として720mlの日本酒のボトルであり、それがフレグランスのボトルになる、ということに、最初は違和感があったと言います。
そして、また、彼は、その日本酒のボトルのフォルムを、少しは変えた方が良いだろうと思い、様々な提案をしました。
しかし、パトリックが、その「白金」のボトルを小さなサイズにしたモックアップをつくって原氏に見せたとき、それがフレグランスのボトルになりえること、そして、そのフォルムこそが、このフレグランスのコンセプトを表現することが腑に落ちたと言います。 そして、その表面に名が描かれ、香りが入ることで、それは、確かにフレグランスの器となったのです。 表面は、メタルを蒸着することによって仕上げています。
そして、そのフォルムは、単体では気づかないくらいに、微かに裾が広がっています。
それは、集積して並べられたときに、美しい陰影がつき、人々に驚きを与えるのです。 KENZO POWERロゴには、一見すると黒に見えるような、濃い紫が乗せられています。
エンプティネスのデザイナーである原氏は、通常、何かの理由が無ければ、文字は黒で乗せます。
しかし、パトリックのリクエストによって、そこに紫の色を乗せ、人が、それを「紫である」と認知したときに、そのロゴのまわりが、ぱっと華やぐということに、原氏も驚きを覚えたと言います。 ロジカルにデザインをすすめる原氏と、直感的に方向性を見定めていくパトリックのコラボレーションにより、ボトルとパッケージは、エンプティであり、美しい作品として仕上がっていったのです。
「MUJI」のアートディレクション、枡一市村酒造場の酒ボトル「白金」、松屋銀座のリニューアル、長野オリンピックのプログラム、愛知万博のプロモーション、「リ・デザイン―日常の二一世紀」「HAPTIC」などの展覧会制作・・・
原氏の手がけたことは、目の前にありつづけたもの、見慣れてしまって思考しなくなってしまったことについて、あらためて気づかされるような、記憶に残る仕事です。 サントリー学芸賞を受賞した原氏の著書「デザインのデザイン」に、こんな文章が載っています。 『時代を前へ前へと進めることが必ずしも進歩ではない。僕らは未来と過去の狭間に立っている。創造的なものごとの端緒は社会全体が見つめているその視線の先ではなくて、むしろ社会を背後から見通すような視線の延長に発見できるのではないか。』 彼は、また、自身のことを「『エンプティネス』のデザイナー」とも呼びます。
「エンプティネス」とは、西洋において、いわゆる権力の表現としてのデコラティブな要素が歴史の中で必要性を失い、そぎ落とされることによって行き着いた「シンプル」の概念とは異なり、あらゆる文化が流れ込み、煩雑な文化のたまり場に位置する日本という場所において、何も無いこと=空っぽをもって全てをバランスさせようという、全ての混沌を引き受ける包容力のある器という概念です。



